一 枚 の 写 真

谷村 彪

 話はちょっと古くなるが、想い出の写真について書いてみようと思う。

静けさのなかで


  手元に一枚の写真がある。2003年6月に尾瀬ヶ原で撮った白樺林の幻想的な写真である。その日私は特別ウォ-クの下見のため、正田さん、和澤さん(故人)と尾瀬ヶ原を歩いていた。木道で行き交うハイカ-達と「コンニチハ・・」と挨拶を交わしながら東電小屋に向かっていたが、ウィ-クデ-の午後で行き交う人も少なく、そのうちに湿原の周りに人影が無くなり尾瀬ヶ原は私たち3人だけのものになった。ゆっくりと可憐な花たちを撮りながら進むうち、3時半頃だったろうか、何となく左を見ると、池塘に小さな白樺の古木が浮かんでいるのが目に映る。その時間帯、周りは霧の中であったが、なぜかこの時だけ、この場所だけ陽が射していたのである。ほんの数十秒だったのではないだろうか・・。三脚など立てるヒマはなく、思わず夢中でシャッタ-を切った。それが、この一枚である。十数年前の写真ではあるが今日でもお気に入りの一枚として残っている。

 蛇足であるが、この写真は2003年夏、某全国紙の「日本の美しい自然を撮ろう」コンテストで入選し、全紙サイズで展示された。ちなみにテーマは撮影時点での雰囲気そのままに“静けさのなかで”とした。